紙がそっと結んだ、苺の小さな物語

2025.05
07

紙の優しさが紡いだ新しい物語

桜が咲くと、心がふっと和らぎます。満開の桜を見上げると、今年も春が来たな、と実感します。

小さな出会いは、新しくリニューアルされたばかりのコーポレートサイトからでした。
「WEBの画像シェアサービスで見つけた素敵な紙のパッケージに惹かれました。ぜひ一度ご相談したいです」
そんな一通のメールが、私たちのもとに届いたのです。送り主は、栃木の菓子メーカー「武平作」様。期間限定キャンペーンの『苺屋武平作』で使う、イチゴのチョコレートフィナンシェのパッケージを制作してほしい、というご相談でした。

お客様からのご要望は明確でした。「イチゴのチョコレートフィナンシェが5個入るサイズにして、拝見したサンプルのように、可愛らしくて手に取りたくなるようなパッケージを作りたい」と。

きっかけとなったサンプルは、WEB上に掲載していたもので、あくまで見た目のインパクトや表現力を重視したサンプル。けれど、今度は実際に商品として店舗に並ぶパッケージ。素材や構造、使い勝手など、ひとつひとつを丁寧に見直しながら、“本当にお客様に喜ばれるかたち”を目指して、紙の物語は静かに動き出しました。

紙に託した小さな願い

打ち合わせを重ねる中で、最初にご覧いただいたサンプルデザインをそのまま使うのではなく、「どうすればより商品として現実的でありながら、かわいらしさをさらに引き立てられるか」をじっくりと考えるようになりました。

たとえば、印象的だったイチゴの形や色味をどう活かすか、フィナンシェ5個が無理なく収まり、ギフトとしても成立するバランスとは何か――そんな視点で、構造や素材感を丁寧に見直していきました。

試作を何度も重ねる中で、特にこだわったのがフタの部分でした。
本物のイチゴの葉を何度も手に取り、その重なりや柔らかさをじっくり観察しながら、紙で再現する方法を探りました。急がず焦らず、丁寧に紙と静かな対話を続けるように。一枚一枚の葉を作りながら、紙という素材が持つ奥深さと静かな力を改めて感じました。

その中でも特に苦慮したのが、「茎」の扱いです。ご覧いただいたサンプルでは、イチゴの立体感を強調するために茎をつけていたのですが、実際に商品化するうえでは、店頭での陳列やお客様の持ち帰りの利便性を第一に考え、あえて茎を取り除くという判断をしました。見た目の印象を損なわずに、全体のフォルムをより洗練された形へと再構成し、使いやすさを備えた設計に仕上げました。

まるでイチゴをひとつひとつ手で包んだような、温かくやさしい雰囲気を届けたい――そんな思いを込めてデザインを練り上げたこの提案は、後に武平作様からも「現実性のあるパッケージ」としてご評価をいただくこととなりました。

過去から響いたYさんの言葉

そうして最初に作った試作は、私にとっては十分に良い出来だと感じていました。「これなら問題ないだろう」と思っていたそのとき、営業担当でリーダー格のYさんが試作品を一目見て、静かに、しかしはっきりと言いました。「この曲線部分をもっとシャープにすべきだ」。その言葉に私はハッとしました。Yさんは、妥協なく品質を追求する姿勢で、迷いなく「作り直そう」と指示を出しました。

その瞬間、数年前のある出来事が鮮やかに蘇りました。当時まだ経験が浅かった私は、「サンプルだから」と完成度よりもスピードを優先して簡単に済ませてしまったことがありました。その結果、お客様の期待には応えられず、提案そのものが受け入れられなかったのです。一緒に動いてくれていた営業担当の、寂しげで落胆した表情を私は今でも鮮明に覚えています。

「サンプルの段階こそ、丁寧に心を込めて作らなければ、伝わるものも伝わらない」――。Yさんの「もう一歩だけ、進めてみよう」という言葉と、あのときの厳しくも温かい指摘が、私の心に再び火を灯しました。

静かな喜びを届けるために

完成したパッケージを初めて目にしたとき、誰もが穏やかな笑みを浮かべました。鮮やかな赤と優しい緑、そして栃木県が大切に育てる「いちご王国」の妖精「いちごちゃん」の微笑みがそこにありました。

組み立ての手間を心配する声もありましたが、武平作の担当マネージャーが「多少の手間よりも、お客様が喜ぶ顔が一番大切」と言ってくださり、その一言が決め手となって制作が前に進みました。

後日、武平作様から届いたお言葉には、こんな温かな一言が添えられていました。
「本当にありがとうございました。きっとまた追加になると思います。他の商品についても、ぜひご相談させてくださいね」。

その言葉の中に込められた信頼と期待が、私たちにとって何よりの励ましになりました。

また、教えていただいた、店頭に並んだパッケージを見たお客様の言葉は、私たちの期待以上でした。「可愛い」「これがいい」と囁かれる小さな歓声は、私たちの静かな努力が実を結んだ瞬間でした。

私は心の中でそっとつぶやきました。「紙の優しさが、またひとつ物語を繋いでくれたのです」と。

新しいコーポレートサイトが結んでくれたご縁を、紙という素材を通じて確かな喜びへと繋げることができました。この小さな物語が、静かに、そして温かく続いていくことを願っています。

株式会社武平作
大正12年に創業した栃木県栃木市城内町の老舗米菓メーカー。栃木本店をはじめ県内4店舗の直営店とオンラインショップを展開。
https://buheisaku.com/

May 12, 2025
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