

ふわり、桜が舞うように - 記憶に残るパッケージづくり
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——春の香りを包む、やさしい気持ち
桜が咲くと、心がふっと和らぎます。満開の桜を見上げると、今年も春が来たな、と実感します。
冬の寒さが和らぎ、ぽかぽかとした陽ざしが続くようになると、街の空気がやわらかくなっていくのを感じます。駅前には桜色のポスターが並び、お菓子や飲み物のパッケージも淡いピンク色に染まっていきます。通りを歩く人たちもどこか軽やかで、春という季節が持つ特別な雰囲気を感じる瞬間です。
桜は、ほんのわずかな期間しか咲きません。だからこそ、その一瞬の美しさに心を奪われ、儚いからこそ、記憶に強く刻まれるのかもしれません。
デザインの仕事をしていて思います。桜のように、一瞬の出会いで記憶に残るものを作りたい。手に取ったときの印象が、ずっと心に残るようなデザインを届けたい、と。

春を包むデザインを考える
春のパッケージをデザインするとき、「春らしさとは何か?」を考えます。
桜色の美しさは、ただのピンクではありません。朝日に照らされたときの淡い輝き、夕暮れに染まるときの深みのある色、雨に濡れたときのしっとりとした質感。桜は、光の当たり方や時間によって、その表情を変えます。
「桜って、いつ見てもきれいだけど、なんか切なさがあるよね」
打ち合わせ中、同僚がふとそうつぶやきました。その言葉を聞いたとき、私の中にひとつの記憶が蘇りました。

学生の頃、卒業式の日に見た桜。校門の前で、友達と「また会おうね」と言いながら写真を撮ったあの瞬間の景色。まだ満開ではなかったけれど、風に舞う花びらが、とても綺麗だったのを覚えています。
「春は、新しい始まりの季節。だけど、ちょっとした別れの季節でもある」
だからこそ、桜にはどこか儚さがあり、そして、人の心に残るのかもしれません。
今回デザインしたのは、桜の香りの石鹸を包むパッケージでした。
卒業や入学、転職、退職など、新しい門出を迎える人への贈り物として、小さな石鹸に春の香りを込める。そんなギフトにふさわしい、やさしく温もりのあるパッケージを目指しました。
桜の形をしたパッケージの試行錯誤
桜の花びらが重なり合う、ふんわりとしたやわらかさ。
それを表現するために、パッケージの形にもこだわりました。
最初に考えたのは、「桜の花をかたどった箱にする」というアイデア。けれど、実際にデザインを進めていくと、花の形そのままでは陳列しにくくなったり、構造的に組み立てにくくなったりと、さまざまな課題が出てきました。

「シンプルに見えるものほど、作るのは難しいんだよね」
工場の担当者がぽつりと言ったその一言に、思わず頷きました。
そこで、「見た目には桜の花びらの柔らかさを感じさせながらも、機能的に美しく収まる形」を目指すことに。
花びらの丸みを強調しすぎると、可愛らしいけれどバランスが崩れてしまう。逆に直線的にしすぎると、桜らしさが薄れてしまう。「やわらかさ」と「美しいフォルム」のちょうどよいバランスを見つけるために、何度も形を修正しました。
春のやさしさを、色で伝える
春の温かみを感じてもらうために、色にもこだわりました。
全体のカラーは、やわらかな桜色。淡いピンクのグラデーションを取り入れ、桜の花びらがふんわりと舞っているようなデザインにしました。
また、箱を開けたときに感じる「軽やかさ」も大切にしました。
春の空気のように、ふわっとやさしく手のひらに収まるサイズ感。持ったときに自然と指が馴染み、そっと開けたくなるようなフォルムに仕上げています。

やわらかく、あたたかく見せるための裏側
やわらかく、あたたかいデザインほど、その裏にはたくさんの試行錯誤があります。
今回のパッケージも、見た目はシンプルでやさしい印象ですが、そこにたどり着くまでには、細かな調整を何度も重ねました。
「このカーブ、あと1ミリ変えたらもっと綺麗に見えるんじゃない?」
そんな小さな違いを積み重ね、ようやく完成した形。その瞬間、チームの誰かが「これなら、ちゃんと春を感じてもらえそう!」と笑顔になりました。
やわらかく、ふんわりとした桜のパッケージ。その裏側には、何度も試行錯誤を重ねた細かなこだわりがあります。

春を贈るパッケージ
春は、新しいことが始まる季節です。
卒業、入学、転職、退職……さまざまな節目に、「ありがとう」や「おめでとう」を伝える機会が増える時期。
今回の石鹸のパッケージも、そんな贈り物のひとつとして選ばれるかもしれません。ふと手に取ったとき、「春の香りがするな」と感じてもらえたら。箱を開けたとき、ほのかに香る桜の香りとともに、やさしい気持ちになってもらえたら。
春のデザインは、ただ「桜のモチーフを使うこと」ではなく、春という季節が持つ、あたたかさややさしさを感じてもらうことだと思います。

それでも、手に取った人が「春の訪れを感じるな」と思ってくれるなら、そのすべての苦労は、やさしい春の風にのせて、どこかへ消えてしまうような気がするのです。
来年の春も、また新しい桜をデザインできるように。
今日もまた、春のパッケージを考えています。
あなたの春の記憶に残るデザインは、どんなものでしょうか?
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